◆ハイパースケーラにおけるVMware SDDC as a Serviceの提供
現在AWS,Azure,Google,IBM,Oracleの5社がVMware社のVMware Cloud Foundationベースのクラウドサービスを提供しています。AWSだけはAWS基盤をベースとしたVMware社のクラウドサービスとして開発され、他4社のサービスはVMware社からソフトウェア提供を受けハイパースケーラ各社の自社サービスとして提供されています。
こういったサービスというとVMware Cloud on AWS(VMC on AWS)が先駆者のイメージがありますが、実は後発でIBM社やOracle社の方が先行してサービスを提供していました。
ハイパースケーラ各社は当然自社のIaaSサービスとして仮想マシン as a Serviceを提供しているわけですが、なぜVMware SDDC as a Serviceが必要なのでしょうか?
仮想マシンとしては移行可能だしせっかくクラウドに移行するんだからIaaSサービスに移行すればいいじゃないかという意見も当然一理あります。
ただオンプレミスに多くある仮想基盤上で動作するシステムでは、システムの一部を変更することによるシステムの改修コストや、運用の変更によるコストそういったことを考えると従来のシステムを何も考えずに移行した方が結果的にやすいといったことが往々にしてあります。
クラウド移行を引っ越しに例えると、部屋の家具が現在の部屋に合わせたオーダーメイドの壁面収納だらけでそ全部作り直しになってしまうとコストがかかるため、そのまま移行できる引っ越し先を検討しているる、そんなイメージです。
クラウドに移行する気はあるけど、システム自体をクラウドネイティブに移行するのはまだまだ先、こういったシステムを中途半端にコストをかけてクラウド移行することは同じシステムを車輪の再発明するようなものです。このような場合にはまずはそのままクラウドに持っていて、将来のクラウドネイティブに移行するのを容易にすることが重要だと考えられます。
◆VMware SDDC as a Serviceとは?
ハイパースケーラ各社のベアメタルサーバ上にvSphere + NSX + vSAN + HCXが提供されるものです。基本的にどのハイパースケーラのサービスを選んでもこの基本構成は変わりません。
vCenterやNSXの管理をどこのレイヤから利用者に提供しているのか、HCXの利用可能なエディションの違いなど細かなところで違いはありますが、動作する仮想マシンとしてはvSphereのバージョンに差はあるもののオンプレミスで動作している仮想マシンをそのまま移行することができるようになっています。ただし残念ながらオンプレミスで利用していたライセンスを持ち込むことはできません。
◆VMC on AWSの特徴
VMC on AWSはAWS社インフラ上で提供VMware社のクラウドサービスです。
そのためAWSのリソースに依存することなく、VMC on AWS単体でも動作するような設計になっています(AWSアカウント/VPCとの紐づけは必須です)。
VMC on AWS以外のハイパースケーラのサービスと違い、VMware SDDC as a ServiceのコンポーネントであるNSXルータが外部ネットワークとの外接ルータとして機能することになります。
VMware Transit Connectを使ってVMwareマネージドのTransit Gatewayを使って外部ネットワークや他のVPC接続することも可能です。
VMware Transit ConnectはAWS Transit Gatwayベースのサービスですが、すべてのAWS Transit Gatewayの機能をサポートするわけではありませんので注意が必要です。
標準で提供されるHCX Advancedに一部HCX Enterpriseの機能の利用が許可されていたり、vShpere,NSXの新機能がクラウドサービスでの提供がいち早く行われるのがVMC on AWSの他社にはない特徴といえます。また直近のアップデートでVMware Transit Conenctで既存AWS Transit Gatewayとの接続がサポートされるようになりました。既存AWSリソースを生かして柔軟なネットワーク構成を実現することができます。
VMware Cloud on AWS の最新アップデート(2021年10月) - VMware Japan Blog
◆Azure VMware Solutionの特徴
Azure VMware Solution(AVS)はMVMware社のクラウドプロバイダー向けプログラムで提供されるソフトウェアを利用してAzureインフラ上で提供されるMicrosoft社が提供するサービスです。
Azure VMware Solution"s"と呼ばれていたサービスも以前提供されていました。
明日@twtkoさんが紹介するGoogle社にCloud Simple社が買収されたことに起因して、Virtustream社が開発していたAzure VMware Solutionsをベースとして現在のAzure VMware Solutionが提供されるようになりました。
Azure VMware Solutionでは単体ではインターネット接続こそ提供可能なものの、既存のAzureリソースやオンプレミスとの接続には必ず関連するAzureリソースが必要になります。Azure VMware Solution単体を知っていても全体の設計はできませんが、既存のAzureの知識や資産をそのまま利用することができるようになっています。管理自体もAzure管理ポータルから実施し、vSphereやNSXに関してはオンプレミス同様の管理を行うことができます。非常にAzureエンジニアからしてみるととっつきやすいサービスといえるかもしれません。
Azure VMware Solutionでは、現在HCX Enterpriseが12カ月間は無償提供されていたり、AzureのIaaSに移行した場合と同様にMicrosoftライセンスの持ち込みやレガシOSの延長サポートを利用することができます。
・HCX Enterprise
・Azure VMware Solution ライセンスガイド
◆VMC on AWS とAzure VMware Solutionってどっちがいいの?
ここまでVMC on AWSとAzure VMware Solutionの特徴を解説してきましたが、値段もできることもそれほど大きな差はありません。既存のvSphereワークロードをそのまま移行して使い続けるためのプラットフォームとして他のハイパースケーラのサービスを含めて共通で言えることです。ではどういった観点でハイパースケーラのVMware SDDC as a Serviceとして利用するのがいいのでしょうか?
では突然ですが問題です!
あなたは突然引っ越し先を探さなくてはいけなくなりました!!!
VMC on AWSは「AWS駅直結の仮想マシン向け住居をVMware社が開発・販売しているもの」になります。
AVSは「Azure駅直結の仮想マシン向け住居をMicrosoft社が開発・販売しているもの」になります。
提供される部屋の間取りも家賃もそれほど変わりません。
皆様はどうやって引っ越し先を選びますか?
ちょっと乱暴な例えかもしれませんが、実際こんな感じです。この場合、多くの方が「AWS駅とAzure駅のどっちが自分にとって魅力のある駅なのか?」で引っ越し先を選ぶのではないでしょうか?よく使うお店がAWS駅の周りの方が多いから、数年後を考えて子育て支援の充実したAzure駅を選ぶなどです。
ハイパースケーラのVMware SDDC as a Serviceを選択する際に重要なのは、サービスの細かな機能差ではなくどのハイパースケーラーのクラウドサービスに移行するのか検討したうえで、自社にとって最適な移行先を選んで頂けると幸いです。
ただし移行時、設計時の注意事項は、ハイパースケーラ各社のサービスによって異なりますのでご注意ください。
本コンテンツはvExperts Advent Calendar 2021に参加しています。
明日は@twtkoさんによる「Google Cloud VMware Engine」の公開が予定されています。
ソリューションアーキテクト: 工藤真臣
仮想化関連製品以外でも、プリセールスから、何でも相談室、障害対応まで何でもこなす雑食系アーキテクト。VCAP-DCA+DCD+CID vExpert 2012-2022