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Windows Server Hyper-VとAzure Localのよくある疑問 #3

みなさん、こんにちは。ネットワールドでSA(ソリューションアーキテクト)として活動している後藤です。

仮想化界隈のアレコレで最近注目を浴びているMicrosoftの仮想化基盤ですが、Windows Serverに搭載されているHyper-V、「Azureのサービス」としてリリースされているAzure Local、これらの関係や立ち位置がよくわからない、という話をよく聞きます。

本記事では複数回に分けて、Windows Server Hyper-VとAzure Local、それらを取り巻く疑問とその答えを解説していく記事の第3回です。

第2回目はこちらになります。

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今回はWindows Server Hyper-VとAzure Localのサービスの比較を通じて、その差異について触れていきたいと思います。

最初に注意事項とお願い

本記事は、筆者の知りうる公開情報をもとに記述しています。

内容については、できる限り出典を明らかにするよう心がけていますが、漏れていた場合はご容赦ください。

また、もし間違い等ありましたらご指摘いただけると幸いです。

疑問6「Azure Localの強みはなに?」

前回までの記事で、Windows Server Hyper-VとAzure Localの差異はハードウェア構成やハイパーバイザーのレベルではそう大きく違うところはなく、むしろハイパーバイザーよりの上のレイヤー、すなわちサービスのレイヤーで大きく異なる、と解説させていただきました。

ストレージ構成がS2D(記憶域スペースダイレクト)のみのAzure Localに対して、ファイバーチャネルやiSCSIなどの従来までのブロックストレージ、SMB3を利用したファイルストレージによる3-Tier構成が組め、最大64ノードまでクラスター拡張できるWindows Server Hyper-Vのほうが構成上有利なのでは? とも思えてしまいます。

今回の疑問は、「そうはいってもあのMicrosoftが出してきた新しいソリューションなんだから、きっとメリットがあるに違いない」という点になります。

Azure Localは「Azureのサービス」としてリリースされていますので、課金体系やサービス内容など、すべてがAzure準拠です。

前回の疑問5でも解説した通り、サポートについてもAzure準拠なので、以下のようなポイントがあります。

  • アップデートし続ける限りはサポートされる(ただしサービス終了まで)
  • Azureサポートが利用できる

Azureサポートについては、執筆時点では月額100ドルの Standardプラン、月額1000ドルの Professional Directプランと、ニーズに合わせて選択可能です。

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筆者は、Azure LocalのサポートでAzureサポートに結構お世話になっていますが、満足度は高いです(あくまでも個人の感想ですが)。

サービスが続く限りはサポートも継続する、というのはポイントが高いと思います。

オンプレミスのWindows Server Hyper-Vの場合は、どうしても10年という壁が存在しますし、ソフトウェアのバージョンアップは有償です(ソフトウェアアシュアランス(SA)が必要だったり、バージョンアップの際に新規ライセンス買い直しだったり)。

対してAzure Localは、毎月のセキュリティアップデートの他、機能アップデートの中でバージョンアップが行われたりします。まさに執筆時点に起きている「ビルド25398からビルド26100へのアップデート」がそれにあたります。

これらはサービスを使用し続けている限りはサービスとして提供されるので、特段の追加コストは必要ありません。これも大きなメリットですね。

ちょっと視点を変えて、Azure Localの課金体系を見てみます。

Azure Localは「Azureのサービス」のため、基本的には「使った分だけお支払い」です。課金単位はAzure Stack HCI OSが動作するハードウェアの物理CPUコア数による課金ですね。執筆時点で1物理コアあたり10ドル/月です。

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当たり前ですが、イニシャルのソフトウェアライセンスは不要です。ハードウェアそのものや、ハードウェアメーカーが提供するソフトウェアライセンスは別途ですが、Azure利用料としては物理コアあたり10ドルのサービス使用料だけになります。

Azure Stack HCI OSの利用料を払っただけでは、Windows Serverの仮想マシンを立ち上げることができません。Windows Server Datacenterと違い、無制限OSEの権利がついていないので。

Azure Localでは「Windows Serverサブスクリプション」というアドオンライセンスが提供されており、物理コアあたり23.3ドルのアドオンライセンス料を支払うことで、無制限のWindows Serverライセンスを付与することが可能です(図1)。

図1:Windows Serverサブスクリプションアドオンの有効化

Windows Serverサブスクリプションアドオンのライセンスでインストール可能なWindows Serverは、最新バージョンまでのすべてのバージョンとなります。

また、このWindows ServerサブスクリプションアドオンにはCALが含まれているため、オンプレミスの仮想基盤上のWindows Serverであるにもかかわらず、CALを別途購入する必要がない点は、非常に魅力的といえます。この辺りもAzureライクな点ですね。

このあたりの公式ドキュメントはこちら。

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ワークロード的な話になりますと、Azure Local上ではAzure Kubernetes Service(AKS)が実行可能です。

Windows Server上でもAKSの実行はサポートされていましたが、2028 年3月27日にサポート終了、後継はAKS on Azure Localである旨のアナウンスされています。

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AKSの使用予定がある場合、今から新規デプロイする場合にはAzure Localを選択すべきでしょう。

なお、AKSの展開はAzureポータルから可能で、展開後の管理もAzureポータルから実施できます。便利ですね(図2)。

図2:AzureポータルでのAKS on Azure Local

また、Azure Local上は「Azure環境」とみなされるため、Azureのみで実行が許可されているワークロードやAzureだから提供されているサービスなどがAzure Local上でも実行可能です。

具体的には以下のサービスですね。

  • 延長セキュリティ更新プログラムの無償提供
  • Azure Virtual DesktopのAzure Local上での展開(AVD on Azure Local)
  • Windows Server Datacenter:Azure Editionの実行
  • Azure Update Managerの無償取得
  • Azure Machine構成(旧Azure Policyゲスト構成)の無償取得

ESUとAVD on Azure Localあたりは、非常に大きなポイントではないでしょうか。

AVDにはWindows 11マルチセッションが使用できるという大きなポイントも含まれています(図3)。大きいですね。

図3:Azure Localにテンプレートとしてダウンロード可能なWindows Client

こういった「Azureのサービス」というポジションを生かした特典盛りだくさんなところが、Azure Localの強みといってもいいでしょう。

このあたりの特典はWindows Sever Hyper-Vでは得られませんので、このあたりの強みを生かしたい! という場合にはAzure Local一択ですね。

ちなみに、上記の特典を得られているかについては、Azureポータルの「VMのAzure検証」の「ホストの状態」がオンになっていればOKです(図4)。Azure Local上での仮想マシンの問い合わせに対して、Azure Localのサービスが「ここはAzure上です」と回答してくれます。

図4:VMのAzure検証

あとはやはり、「Azureポータル/Azureサービスとの連携」でしょうか。

Azure Localは「Azureのサービス」なので、基本的にはAzureから管理を行います(図5)。

図5:Azureポータルから見るAzure Local

基本的なシステム監視はLog AnalyticsとAzure Monitorによる監視とアラート通知が可能ですし、CSPM(Cloud Security Posture Management:クラウド態勢管理)等のセキュリティ管理はDefender for Cloudが使用可能です(図6)。

図6:Azure Localで使用可能なAzureサービス

検証環境のため「未構成」となっていますが、設定することで緑マークに変更され、それらのサービスを使用していることが識別可能です。

仮想マシンのバックアップは、サードパーティのバックアップツール(例えばVeeam Backup and Replication)なども使用可能ですが、AzureのバックアップサービスであるAzure Backupも使用できます。また、災害復旧(Disaster Recovery:DR)ソリューションであるAzure Site Recovery(ASR)を使用することで、オンプレミス環境で万が一のことがあっても、Azure上で仮想マシンを稼働させることができます。

また、ユーザー視点で見ると、Azureポータルをセルフサービスポータルとして使用可能で、AzureポータルでAzure Local上の仮想マシンをデプロイ可能です(図7)。

図7:Azureポータルから仮想マシンがデプロイ可能

Azureなので、権限管理はRBAC(Role Based Access Control:ロールベースアクセス制御)で制御できますので、ユーザー単位で「仮想マシンを作れる人」「見るだけの人」を設定できます。組み込みのロールはこちらを参照してください。

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こういった「Azureのサービス」であることで得られる特典、Azureサービスとの連携やAzureのRBACに基づいた権限管理ができることが、Azure Localの強みと言えるでしょう。

疑問6:Azure Localの強みはなに?

回答6:Azure Localは「Azureのサービス」として提供されているため、さまざまなことがAzure準拠となります。

  1. Azureがサービスを続ける限り、サポートは継続されます。
    またサポートサービスとしてAzureサポートが利用可能です。
  2. ライセンスはサブスクリプションです。
    アドオンライセンスとして仮想マシンのライセンスを付与できる「Windows Server サブスクリプションアドオン」があります。仮想マシンのWindows Serverライセンスの他CALが含まれているので、仮想マシンのサービスに対するCALを別途購入する必要はありません。
  3. Windows Server上ではサポート廃止予定のAKSがAzure Localでは動きます。
  4. Azureの特典がAzure Local上の仮想マシンで享受可能です。具体的な特典としてはESUの権利や、Azure上でのみ許可されるワークロードの稼働などがあります。
  5. 管理プレーンとしてAzureポータルが使用可能です。
    また、Azureのサービスと連携可能なので、運用管理もAzureから行うことができます。
  6. Azureポータルを、Azure Localのセルフサービスポータルとして利用可能です。

疑問7「Windows Server Hyper-VとAzure Localのすみ分けは?」

疑問6でも解説した通り、Azure LocalはWindows Server Hyper-Vにはないメリットが享受でき、Microsoftとしても仮想化基盤に最適なソリューションとして推しています。

とはいえ、Windows ServerとAzure Localは同じカーネルで構築された兄弟のようなものであり、その両者のすみ分けはどうなんだろう? というのは、至極当然な疑問だと思います。

その回答は、実はAzure Local 20H2リリース直後にいろいろなドキュメントで語られていて、本連載第2回の疑問4でも引用したMicrosoftのプレゼンテーション資料にも記述されています。

以下のURLのPDF資料の4ページ目ですね。

https://info.microsoft.com/rs/157-GQE-382/images/JA-WBNR-SlideDeck-SRDEM136488.pdf

Windows Serverは「ワークロード用のOS」として機能強化を続け、Azure Stack HCI OSは「仮想化基盤専用のOS」として進化を続ける、と記述されています。

したがって、Azure Local(Azure Stack HCI OS)はHyper-Vの機能を中心に進化を続け、Windows ServerはADDSやIISといったワークロードの機能がメインになり、Hyper-Vの機能は後回しになる、というイメージだと考えてよいでしょう。

実際、Azure Local 22H2のリリース以降「GPUパーティショニング」や「NetworkATC」といった機能が追加されており、当時の最新のWindows ServerだったWindows Server 2022にはない機能として紹介されていました。

まぁ、このへんの機能はWindows Server 2025で追加されてしまったので、現時点では機能差はない状態ではありますが、常に進化を続けるAzure Localにはいち早くHyper-Vの新機能が組み込まれてリリースされます。

それに対して、Windows Serverはサポート期間中の大幅な機能追加は基本的にはないので、OS導入当初からリタイアするまでは同じ機能で動き続けます。そのため、アプリケーションプラットフォームとしての一貫性は維持されている、という理解でよいでしょう。

疑問7:Windows Server Hyper-VとAzure Localのすみ分けは?

回答7:Windows Server OSはワークロード用のOSとして進化し、Azure Stack HCI OSは仮想化基盤専用OSとして進化を続けます。したがってゲストOS用のOSとしてWindows Server OSを使用し、仮想化基盤としてはAzure Localを使用するのが推奨、というようなすみ分けになります。

疑問8「Windows Server Hyper-VとAzure Localの間で仮想マシンのライブマイグレーションはできるの?」

Hyper-Vを基盤とした兄弟OSの両者なので、Windows Server Hyper-V同士でできることはできるだろうと、素直に考えれば「できる」と回答したくなるところですが、そのあたりは若干異なります。

Azure Local 22H2のときのドキュメントですが、Microsoftのドキュメントで「Windows Server から Azure Local への Hyper-V ライブ マイグレーションと Hyper-V レプリカの使用はサポートされていません。」と記述があり、サポートされていません。

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Azure Local 22H2の時のドキュメントで、すでにアーカイブ入りされているドキュメントではありますが、Azure Local 22H2の時点ではサポート外となっています。

Azure Local 23H2のドキュメントを確認しても、サポートされているという記述は見当たらないので、本ドキュメントの「適用対象: Azure Local 2311.2 以降。」が正しいという前提においてWindows Server Hyper-VとAzure Local間のライブマイグレーションはサポートされていない、とするのが正解でしょう。

疑問8:Windows Server Hyper-VとAzure Localの間で仮想マシンのライブマイグレーションはできるの?

回答8:Microsoftの公式ドキュメント上は非サポートになります。

最後に

Azure Localの強みをポイントにWindows Sever Hyper-Vとの違いに触れ、Windows Sever Hyper-VとAzure Localの互換性の一部を解説しました。

Azure Localは仮想化基盤専用OSとしてのAzure Stack HCI OSとAzureサービスとの強固な連携によって構成され、まさに「Azureのサービス」として提供されていることがお分かりいただけたと思います。

次回も、よくある疑問/質問を通じて、Windows Sever Hyper-VとAzure Localの同じところ/違うところを解説したいと思います。